省エネ基準の変遷と基準値について詳しく解説!(2022年6月20日時点)
省エネ基準は、住宅や建築物の省エネルギー性能を評価するための基準です。
制定以来、改正を重ねて強化されてきたため、現在の基準はどうなっているのか、どうすれば各基準に適合するのかなど、わかりにくい部分があるかもしれません。
省エネ基準の変遷と、現行の「H28省エネ基準」について
そもそも省エネ基準にはどのような種類があるのか、これまでとこれからの省エネ基準の変遷から、
それぞれの基準がどのように関連しあうのか、現行の基準内容まで、基本を押さえておきましょう。
省エネ基準とは
そもそも省エネ基準とは、建築主に対し、住宅の省エネルギー性能の水準などを詳細に定めたものです。
「省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)」に対応する形で1980年(昭和55年)に初めて制定され、
以降何度も改正・強化されてきました。
主な改正は、1992年(平成4年)の通称「新省エネ基準」、1999年(平成11年)の「次世代省エネ基準」、2013年(平成25年)の「H25省エネ基準」、2016年(平成28年)の「H28省エネ基準」の4回です。「省エネ基準」以外の、住宅の省エネに関する基準は以下の5つが代表的なものであり、互いに関連し合っています。
・断熱等性能等級
・一次エネルギー消費量等級
・ZEH
・HEAT20
・長期優良住宅
各基準については、のちほど解説します。
現行の省エネ基準の基本となるのが「H28省エネ基準」
2022年時点で省エネ基準の基本となるのは、2016年(平成28年)に制定された通称「H28省エネ基準」です。
基準の数値については、「H25省エネ基準」から大きな変化はありません。
外皮性能に関する基準と、一次エネルギー消費量に関する基準の2点から、住宅の省エネルギー性能を評価します。
外皮性能に関する基準では、「外皮平均熱貫流率(UA)」と「冷房期の日射熱取得率(ηAc)」を用いて、
住宅の窓や外壁など建築手法による省エネルギー性能を評価します。外皮性能を上げる工夫により高断熱・高気密に造られた住宅は、
暖房・冷房が効率的に利用できるため、高い省エネ基準を満たすことが可能です。
設備手法による省エネルギー性能を評価します。
太陽光や熱利用などの創エネ化、暖冷房・換気・給湯・照明設備の高効率化で、エネルギーの使用量を少なくした住宅は、
高い省エネ基準を満たすことが可能です。
外皮平均熱貫流率(UA)・冷房期の日射熱取得率(ηAc)・一次エネルギー消費量という3つの値の計算方法と基準値は、
2015年制定の「建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)」によって定められています。
そのほか、H28省エネ基準で新しく定められた重要な内容は、
「説明義務化」と「適合義務化」という2つの義務化です。
2021年4月から開始された省エネ基準の「説明義務化」により、
建築士は建築主に対して、住宅が省エネ基準を満たしているかどうかを説明しなければなりません。
また、2025年に開始される省エネ基準の「適合義務化」では、現行のH28省エネ基準のレベルが義務化される予定です。
「断熱等性能等級」「一次エネルギー消費量等級」と「長期優良住宅」について
「断熱等性能等級」と「一次エネルギー消費量等級」です。
断熱等性能等級とは?
断熱等性能等級とは、「外皮平均熱貫流率(UA)」と「冷房期の日射熱取得率(ηAc)」に加えて、
「結露防止基準」を満たすことにより認められる、省エネに関する基準です。
断熱等性能等級4が、H28省エネ基準と同等レベルとなります。
なお、品確法・住宅性能表示制度の改正により、2022年4月1日から1つ上位の等級である断熱等性能等級5が追加されました。
2022年10月からはさらに上位の等級が追加されますが、等級6で概ね30%、等級7で概ね40%の削減水準を満たす必要があります。
断熱等性能等級では、全国を8つに分けた地域ごとに「外皮平均熱貫流率:UAの基準値」を設定しています。
等級は2~7まで設定され、地域6(東京等)を例に挙げると、H28省エネ基準と同等レベルの等級4の場合でUA基準値が0.87以下、
最も断熱性能が高い等級7のUA基準値が0.26以下です。
Q値(熱損失係数)のほうがわかりやすい、という方のためにお伝えすると、東京の場合は等級7でQ値=1.1の高断熱となっています。地域ごとの違いと関連性については、以下の3つの特徴を押さえておくと理解しやすいでしょう。
特徴1:地域1(夕張等)と地域2(札幌等)は、等級2~7までの基準値がすべて同じ。
特徴2:地域5(水戸等)、地域6(東京等)、地域7(熊本等)は、等級4以上の基準値がすべて同じ。
特徴3:地域8(沖縄等)には、UA基準の設定がない。
一次エネルギー消費量等級
等級4はBEI=1.0、等級5がBEI=0.9です。等級5に適合するためには、等級4より一次エネルギー消費量を10%以上減らす必要があります。
2022年4月1日の改正で、一次エネルギー消費量等級にも1つ上位の等級6が追加されました。
等級6の基準では、等級4よりも20%以上の削減が求められ、BEI=0.8以下となっています。
上位等級の追加は「長期優良住宅」の認定に影響
2009年に制定された「長期優良住宅促進法」では、耐震等級2・等級3のほか、断熱等性能等級4を満たすことが認定条件でした。
2022年10月の認定基準改正では、耐震等級は2・3のまま変わりませんが、断熱等性能等級は等級4から等級5へと基準が強化されます。
また、これまでには求められなかった一次エネルギー消費量等級も条件に追加され、等級6に適合することが必要条件となるのです。
「ZEH」と「HEAT20」と、各基準値の関係について
それぞれの基準も詳しくご紹介しましょう。
ZEHとは?
家全体の断熱性と設備の効率化により消費エネルギーを抑え、太陽光発電などでエネルギーを創り出すことで可能になります。
2008年ごろからアメリカで注目された新しい省エネ住宅であり、2014年には日本でも
「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」という「エネルギー基本計画」が閣議決定されました。
国策として認められていることから、ZEH基準の4つの条件に適合すると、様々な補助制度が受けられます。
ZEH基準のUA値は「断熱等性能等級5」と同等のため、東京の場合はUA=0.6以下となります。
条件2は「設計一次エネルギー消費量」の削減量を、「基準一次エネルギー消費量の20%以上」にすることです。
条件3は再生可能エネルギーの設置によって「設計一次エネルギー消費量」を削減しなければなりません。
条件4は条件2・3で削減したエネルギー量を「基準一次エネルギー消費量」の100%以上にすることです。
4つの条件をすべて満たせば、ZEH基準に適合したと認められます。
HEAT20とは?
「HEAT20」とは、2009年に発足した一般社団法人「20年後を見据えた日本の高断熱住宅研究会」の略称です。
G1・G2・G3という3つの住宅外皮水準で、それぞれUAの基準値を定めています。
地球温暖化とエネルギー問題対策のために作られた民間の研究組織であり、発足時から国が定める省エネ基準値よりも厳しい基準を設けてきました。
一番下のグレードのG1水準でも、「H28省エネ基準」や「ZEH基準」より高いレベルです。
国が定める中で上位等級である「断熱等性能等級6」がG2、「断熱等性能等級7」がG3と同じ基準値となっています。
なお、HEAT20では、2022年3月から各水準への適合を証明する「住宅システム認証」制度も開始していますので、高い水準の信用付けとして認証を取得することも可能です。
「H28省エネ基準」と他の基準値は、どのように関連している?
ZEHとHEAT20はどちらも基準値が高く、H28省エネ基準と同等レベルの設定はありません。
代わりに断熱等性能等級と比べてみると、ZEH基準は等級5と同等レベルであり、HEAT20基準ではG2が等級6、G3が等級7と同水準です。
これからの新築・リフォームで求められる省エネ基準とは?
義務化される基準、実現可能性、利用可能な補助金制度という、3つの視点から考えてみましょう。
2025年「適合義務化」と、さらにその先を見据えて決める
2025年に予定されている省エネ基準の「適合義務化」では、「H28省エネ基準」が義務化される予定ですが、
その後の2030年までには、さらに基準を強化するとも言われています。
「2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」という閣議決定があったように、H28省エネ基準は断熱等性能等級4ですが、ZEHは等級5だからです。そのため、現行のH28省エネ基準は、最低限必要な基準と考えたほうが良いでしょう。
これから新築・リフォームをするなら、1つ上位の「ZEH=断熱等性能等級5」以上をおすすめします。
「断熱等性能等級6」なら実現可能かつ快適性も高い
2022年時点で最上位である断熱等性能等級7は、超高断熱仕様といえます。
新築・リフォームの際にも、可能であれば等級7を選びたいところですが、より実現しやすく現実的に目指せるレベルなら、等級6が挙げられるでしょう。
たとえば、東京で等級6(UA基準値0.46以下)を実現する場合、外壁には「グラスウール16K105mm」と、外側に「ポリスチレンフォーム25ミリの付加断熱」を加え、サッシは「樹脂製サッシ」であることが必要です。
これは、十分実現可能な仕様であり、かつ快適に過ごせる水準といえるでしょう。
施工上の注意点としては、外壁の付加断熱を行う場合、開口部の収まりに気をつける必要があります。
また、断熱性能を高めた場合は結露リスクが高まるため、防湿・機密措置の施工精度も上げたほうが良いでしょう。
具体的には、断熱等性能等級に合わせた「結露防止基準」を必ず守ることです。
補助金制度を利用できる省エネ基準は?
各省エネ基準に適合すれば、国の様々な補助金制度を利用できる可能性があるでしょう。
たとえば、子育て世帯や若者夫婦世帯などの条件はありますが、2021年にスタートした「こどもみらい住宅支援事業」が挙げられます。
注文住宅の新築、新築分譲住宅の購入に対する補助金額は、「H28省エネ基準」の適合で60万円、「長期優良住宅」で80万円、「ZEH基準」の適合で100万円です。
省エネ基準を上げると建築費が増えやすいのも事実ですが、長い目で見たときの光熱費の削減額や、生活の快適さも重要な要素といえます。
可能であれば、補助金制度利用の面からも、ぜひ「長期優良住宅」や「ZEH基準」など、上位の基準に合わせた住宅を選ぶことをおすすめします。
今後も強化されていく省エネ基準に適合する新築・リフォームとは?
2022年10月からは、長期優良住宅の認定基準の改正、断熱等性能等級6・7という上位基準も設置されます。
新築やリフォームの際には、2025年の省エネ基準適合義務化も見据えて、現行のH28省エネ基準よりも上位の性能を選ぶと良いでしょう。
たとえば、利用できる補助金の多いZEH基準や、快適さに優れた「断熱等性能等級6(G2)」以上の基準をおすすめします。
杉森 康裕(気密測定技能者)
断熱材は建物の性能の「柱」となる重要なポジションを担っています。私たちは一貫して「より良い住宅のお手伝い」をモットーに断熱はもちろん、気密や工法に関わる商品の提案・サポートを行っています。多くの方に『松原産業のパイナルフォーム』をご採用頂けるように精進していきますので是非よろしくお願い致します。